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大阪地方裁判所 昭和58年(行ウ)138号 判決 1985年10月31日

原告 高島剛

被告 門真税務署長

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五七年三月一一日、原告の昭和五三年分ないし同五五年分の各所得税についてした各更正処分、及び、重加算税の各賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分の経緯等

原告は、寝屋川市下神田において、「萱島ゲームセンター」の名称で遊技場等を営んでいる者であるが、昭和五三年ないし同五五年の各年分の所得税について、別表(一)の1の総所得金額欄に記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、昭和五七年三月一一日、別表(一)の2の更正処分、及び、賦課決定処分の各欄に記載のとおりの各更正処分、及び、重加算税の各賦課決定処分(以下、右各更正処分と重加算税の各賦課決定処分を「本件各処分」という。)をした。そこで、原告は、被告に対し、同年四月一七日、異議申立をしたところ、被告は、同年七月一五日、異議棄却の決定をしたので、原告は、更に国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和五八年九月九日、審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決は、同月二六日、原告に送達された。

2  本件各処分の違法事由

しかしながら、被告がした本件各更正処分のうち、各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも不合理な推計により、原告の所得を過大に認定したものであり、本件重加算税の各賦課決定処分(いずれも、審査裁決により維持された部分。以下同じ。)は、右推計の基礎となる資料を誤つて解釈した結果されたものであるから、いずれも違法である。

よつて、原告は、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  本件各更正処分について

原告の総所得金額は、昭和五三年分が金四〇八八万八四五五円、同五四年分が金三一七五万三七二六円、同五五年分が金三四九五万三〇七九円であり、右各総所得金額の範囲内でされた本件各更正処分は適法である。

右各年分の総所得金額は、以下に述べるとおり、原告の各年分の事業所得金額と給与所得金額とを加算したものである。

(一) 事業所得金額

(1) 収入金額

(イ) 原告の係争各年分の収入金額(売上金額と雑収入金額との合計額)は、次のとおりである。

昭和五三年分 金四四九七万一九五三円

同 五四年分 金三六一四万八三九四円

同 五五年分 金三八六六万〇〇八四円

右各収入金額は、原告が被告に提出した係争各年分の確定申告書、及び、青色申告決算書に記載している収入金額(以下、「原告申告に係る収入金額」という。)に、三・四五六を乗じた金額である。

(ロ) 被告が、原告申告に係る収入金額の三・四五六倍相当額をもつて、原告の実際の収入金額であると主張する理由は、次のとおりである。

すなわち、被告の調査担当者が、原告に対して所得税調査を行つた際、原告から、昭和五三年分、及び、同五四年分の売上金額を記載した各日計票は既に廃棄したとして提示されなかつたが、昭和五五年分の日計票三五六枚、及び、係争各年分の売上、経費に関する事項をメモ書きした大学ノート、並びに、領収書を提示された。そこで、右日計票三五六枚を子細に検討すると全てについて筆圧による凹凸があり、この部分を鉛筆で軽く擦るとゲーム機の「種類」とゲーム機用コインの「枚数」が浮き彫りになつた。そして、浮き彫りになつた文字と数字を明瞭に読みとれたもののうち、売上高を判断できたものは、日付の一部誤りを訂正すると別表(二)に記載のとおりであり、昭和五五年一一月七日から同年一二月三〇日までの間の合計二三枚であつた。なお、前記三五六枚の日計票のうち、一月から一〇月までの日計票の筆跡痕については、いずれもゲーム機ごとの換金枚数だけが記入されており、売上枚数等が記入されていなかつたため、右日計票によつては、換金額を控除した後の売上高を判断することができなかつたものであり、また、右の日計票、及び、前記二三枚の日計票を除くその余の日計票については、筆跡痕が認められたものの、その記載内容が不明瞭であつたため、売上高を判断できなかつたものである(乙第二号証参照)。次いで、前記二三枚の日計票について、実際に記帳された収入金額合計金八〇万八〇〇〇円と、筆跡痕により判明した実際の収入金額合計金二七九万二五〇〇円とを比較すると、実際の収入金額は、次のとおり、記帳された収入金額の三・四五六倍に当たつた。

(筆跡痕による実際の収入金額) (原告記帳の収入金額)

2,792,500÷808,000=3.456

被告は、右事実に基づき、次のとおり、原告の申告に係る収入金額に三・四五六を乗じた金額を原告の係争各年分の収入金額としたものである。

(年分) (申告に係る収入金額) (除外割合) (推計による収入金額)

53 13,012,718×3.456=44,971,953

54 10,459,605×3.456=36,148,394

55 11,186,367×3.456=38,660,084

(ハ) なお、原告は大阪市信用金庫門真支店の預金口座三口(すなわち、原告名義の普通預金(口座番号二―一三三九三九)、同名義の当座預金(口座番号一〇一〇六八)及び原告が収入金額を隠ぺいし所得税の逋脱を図るため開設した架空名義(細川昭一)の普通預金(口座番号一九六五二九))へ収入金額を入金している。

原告が、右三口座へ入金した総額及びその内訳は、預金利息入金等を除き次表のとおりであり、昭和五三年分、及び同五四年分についてみれば、いずれの年分も、右三口座へ入金されたと認められる収入金額は、原告申告に係る収入金額の三・五ないし三・六倍に相当する。

区分

昭和五三年分

昭和五四年分

<1>

総入金額(利息等を除く)

四八六一万四八五〇

四七七八万〇八一一

内訳

原告名義・普通

三一一万〇〇〇〇

四〇九万五〇〇〇

原告名義・当座

四九五万七五〇〇

二一八〇万一四〇〇

架空名義・普通

四〇五四万七三五〇

二一八八万四四一一

<2>

収入金額以外の入金額

一四〇万三一三三

一〇四九万一四一一

<3>

差引収入金額(<1>-<2>)

四七二一万一七一七

三七二八万九四〇〇

<4>

原告の申告収入金額

一三〇一万二七一八

一〇四五万九六〇五

<5>

倍率(<3>÷<4>)

三・六二八一(倍)

三・五六五〇(倍)

(単位・円)

右表からも明らかなとおり、前記推計による収入金額は、右表「<3>差引収入金額」欄に記載の金額と近似しており、この点からも推計による収入金額は十分合理性があるものといえる。

(昭和五五年分については、原告がメモ書きした大学ノートには記載されていない収入金額の大半が入金されていた前記架空(細川昭一)名義の普通預金が昭和五五年六月三〇日に解約されており、検討できない)

(ニ) また、原告は、本件ゲームセンターのほか、株式会社レストラン高陽(以下、「訴外高陽」という。)、及び、株式会社高商(以下、「訴外高商」という。)を経営しているが、右二法人は、原告、及び、原告の妻である高島光栄から、次のとおり、多額の借入れをしている。

法人名

借入年月

借入残高

借入先

株式会社 高商

(昭五四年七月設立)

昭和五四年七月

〇円

原告

〃 五五年四月

五五七八万二三一五円

〃 五六年四月

七八一〇万一七七五円

株式会社

レストラン高陽

〃 五三年九月

一六五一万九七九一円

原告及び原告の妻

〃 五四年九月

一六六七万六〇三一円

〃 五五年九月

一八〇八万二二九五円

〃 五六年九月

二一四〇万八九四四円

合計

九九五一万〇七一九円

しかし、原告、及び、その妻は、そのような多額の貸付けができるほどの所得を申告しておらず、その資金出所もまた不可解というほかない。すなわち、原告の申告所得は、別表(一)の1の総所得金額欄に記載のとおりであり、また、原告の妻は、当時前記二法人から、それぞれ役員報酬として月額金五万円を収受していたにすぎない。

なお、原告、及び、原告の妻は、昭和五六年六月現在で、大阪市信用金庫門真支店から金二五一六万四〇〇〇円(原告名義金一六五六万四〇〇〇円、原告の妻名義金八六〇万円)を借り入れているが、仮に、この借入金二五一六万四〇〇〇円を全部前記二法人へ貸し付けていたとしても、前記二法人の原告らからの借入残合計金九九五一万〇七一九円から右金二五一六万四〇〇〇円を差し引いた金七四三四万六七一九円は依然として、右借入金以外の資金をもつて原告らが貸し付けていることになり、原告らの申告所得金額からみて、到底貸し付けることが可能な金額ということはできない。

これらの事実は、原告の所得が、年間金三〇〇〇万円ないし金四〇〇〇万円あるとする被告の主張に立つてのみ説明できるものである。

(2) 必要経費

原告の係争各年分の必要経費の額は、次のとおりである。

昭和五三年分 金五六四万七〇九八円

昭和五四年分 金七三四万八九二四円

昭和五五年分 金七五七万七〇〇五円

これらの必要経費の金額は、原告が青色申告決算書の各費目の欄に記載した金額の合計額にゲーム機に係る減価償却費の計算誤りによる増減差額をそれぞれ加算又は減算したものである。

(3) (1)に述べた係争各年分の収入金額から、(2)に述べた係争各年分の必要経費の額をそれぞれ差し引くと、係争各年分の事業所得金額は次表のとおりとなる。

区分

昭和五三年分

昭和五四年分

昭和五五年分

<1>

収入金額

四四九七万一九五三

三六一四万八三九四

三八六六万〇〇八四

<2>

必要経費の額

五六四万七〇九八

七三四万八九二四

七五七万七〇〇五

<3>

事業所得(<1>-<2>)

三九三二万四八五五

二八七九万九四七〇

三一〇八万三〇七九

(単位・円)

(二) 給与所得金額

原告の給与所得金額は、原告が係争各年分の所得税確定申告書に記載したとおりの金額であり、昭和五三年分が金一五六万三六〇〇円、同五四年分が金二九五万四二五六円、同五五年分が金三八七万円である。

2  本件各重加算税賦課決定処分について

原告は、係争各年分の所得税確定申告書に収入金額を過少に記載し、除外した収入金額を前記1の(一)の(1)の(ハ)に記載のとおり、架空名義の預金口座に入金することにより、課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき所得税確定申告書を提出したのであるから、本件各重加算税賦課決定処分もまた適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否、及び、反論

1  認否

(一) 被告の主張1の冒頭部分の事実は否認する。

(二) 同1の(一)の(1)の(イ)、及び(ロ)の事実のうち、原告の確定申告に係る係争各年分の収入金額が、被告の主張するとおりの金額であることは認めるが、その余の事実は否認し、推計の合理性は争う。

(三) 同1の(一)の(1)の(ハ)の事実のうち、原告が、被告の主張する預金口座に、被告の主張する金額を預金していること、及び、細川昭一名義の普通預金を昭和五五年六月三〇日に解約していること(以上の事実については認否をしない)を除くその余の事実は否認する。

(四) 同1の(一)の(1)の(ニ)の事実のうち、原告が、訴外高陽、及び、同高商を経営していること、右二法人が、原告、及び、その妻から、原告主張額の借入をしていること、昭和五六年六月現在の時点で、原告が大阪市信用金庫門真支店から、多額の借入をしていること(以上の事実については認否をしない)を除くその余の事実は否認する。

(五) 同1の(一)の(2)の事実は認否をしない。

(六) 同1の(一)の(3)の事実のうち、係争各年分の必要経費の金額を除くその余の事実は否認する。なお、必要経費については認否をしない。

(七) 同1の(二)の事実は認否をしない。

(八) 同2の事実は否認する。

2  反論

(一) 被告が日計票について主張する筆跡痕は、各当日における外形的なコインの売上枚数を記帳したものであり、この中には従業員が客寄せのため、ゲーム機を使用して遊んだ枚数まで含まれているので、右数値が即各当日の売上高を示すものではない。すなわち、一般的に、ゲームセンターの場合には、従業員が右客寄せのためゲーム機を使用する関係で、ゲーム機の示すコインの売上枚数から売上高を計算することはできず、収支については、最も単純な方法である各当日における現金残高から売上高を計算するほかなく、現に原告は、「萱島ゲームセンター」につき長年そうしてきたのである。これは、ゲームセンター業界における一般慣例でもある。

なお、昭和五五年度の日計票のうち、同年一一月、一二月分にのみ筆跡痕が認められるのは、丁度そのころ、原告が、実際の現金収入金額とゲーム機の示すコインの売上枚数に二〇円(コイン一枚の単価)を乗じた金額との差額を比較する方法によつて、その雇用する従業員が毎日どの程度、機械を使用しているかを調査するため、従業員に命じて、ゲーム機の示す右コインの売上枚数を記帳せしめたことがあるからである。

(二) 被告が推計課税の根拠としたのは、乙第一号証の一ないし二〇、同第三号証の日計票の上下四段の数値の筆跡痕であるはずのところ、右乙第一号証の一ないし二〇の筆跡痕は、極めて不鮮明なものである。特に、一一月一八日分、同月二四日分、同月二七日分、一二月一日分、同月二日分、同月三日分、同月四日分、同月二一日分、同月二二日分、同月二七日分は、全く判読不能である。原告が、日計票の現物を精査する限り、筆跡痕が認められるのは、一一月七日ないし九日分、同月一二日ないし一五日分、一二月二三日分の八枚のみであり、かろうじて筆跡痕が認められる一一月一七日分、同月二〇日分、一二月二五日分、同月三〇日分と、後に本訴において提出された一一月一一日分とを併せても、合計一四枚のみである。

また、被告主張の如く、右筆跡痕は、昭和五五年分の年間を通じてあるのではない。乙第二号証の一ないし一〇に認められる筆跡痕のなかには、前記推計課税の根拠とした上下四段の数値の筆跡痕は全くない。このような上下四段の数値の筆跡痕のない日計票等をもとにして、有意義な筆跡痕が日計票の全体を通じて認められるという主張は、全くの暴論である。

(三) 日計票の一部を検査することにより、多数の日計票全体の内容を推計計算するためには、その推計が科学的に見ても合理的であると認められるに足りるだけの相当程度の割合、具体的には、少なくとも日計票全体の二割程度について、前記筆跡痕が検出されなければならないというべきである。

ところで、本件各処分の対象となつた日計票の合計枚数は、一〇四五枚であり、原告が、昭和五五年の三六五日分の日計票だけを呈示し、他の年分については、廃棄したという口実で呈示しなかつたということは、全くない。被告の部下職員がこの日計票について言及したのは昭和五七年二月ごろであるところ、その際、同職員が日計票を調べたいので出してほしいと言うので、原告、及び、その妻の両名が調査対象年度である昭和五三年ないし同五五年分の日計票を呈示しようとしたところ、同職員自らが「五五年分だけで結構です。一年分だけでいいです。」と言うので、原告らはそれに従い、最新の昭和五五年度分の日計票だけを呈示したのである。昭和五三・五四年度分の日計票についても、原告とすれば要求されればいつでも呈示しえたのであるが、被告の部下職員が要求しなかつたので呈示しなかつただけである。ちなみに、甲第一六号証の預り証によれば、被告の部下の調査担当者である清元某は、原告から、昭和五四年分の日計票を預り調査しているのである。

したがつて、前記(二)に記載のとおり、筆跡痕が判読できる日計票一四枚は、昭和五五年分の全日計票合計一〇四五枚のわずか約一・三パーセントにすぎず、仮に、被告の主張するとおり、筆跡痕が判読できる日計票は二三枚であるとしても、これとて全体に占める割合は、約二・二パーセントにすぎない。このような少ない日計票を基礎に、年間の収入金額を推計することは明らかに合理性がないといえるものである。

また、本件は、課税対象年分が三年であるから、その各年分の日計票ごとに二割程度の筆跡痕を検出しなければ推計の合理性がないというべきであるところ、本件では、前叙のとおり、昭和五五年分の日計票があるのみで、同五三、五四年分の日計票は一切の検査を行つていないのであるから、昭和五三、五四年分については、推計の根拠となる資料が一切存在しないというべきである。したがつて、昭和五五年分の資料をもつて、同五三、五四年分の収入金額を推計することが合理的でないことも、また明白である。

(四) 被告が、本訴において、新たに、筆跡痕が認められると主張する昭和五五年一一月一一日分の日計票については、その正規の売上記帳額(三万円)は、筆跡痕の数値(二万八〇〇〇円)よりも金額が多い。この一事をもつてしても、筆跡痕をもつて売上隠しの根拠にして推計課税しようとする被告側の主張がその根底から崩壊するものであることは明白である。また、そもそも被告が本件各処分の根拠としたのが、甲第九号証添付の別表1「除外割合の計算方法」であり、一方被告が現在本訴訟において同様の根拠とするのが別表(二)であるところ、右両表を比較対照すると、両者間に<1>前者で昭和五五年一一月二日の日計票とされていたものが後者では同月二〇日と変更されている、<2>前者で同年一二月五日の日計票とされていたのが後者で同月二日と変更されている、<3>前者になかつた昭和五五年一一月一一日付の日計票が後者で追加されている等の各相違が認められる上、特にこの<3>の相違点は被告側が本件更正処分等をなすにあたつて、自己に不利益になる事項を隠ぺいするためこれまで公けにしなかつたものであることは明白な事実である。

このように、被告の調査は極めてずさんであり、このような調査による資料は、推計課税の根拠として使用しうるものではない。

(五) 被告は、大阪市信用金庫門真支店にある三つの預金口座の預金高の数値を推計課税の一つの根拠にしているが、原告は、本件ゲームセンター以外に、レストラン、麻雀店の店舗を合計五店経営しており、これらの営業からあがる収益のほとんどを右三口座に分散して預け入れていたのであつて、決して右預金の出所は本件ゲームセンターの一店舗のみではないのである。

(六) 被告は、原告、及び、その妻の訴外高商、及び、同高陽に対する貸付金が約金七四〇〇万円あり、これらがあたかも脱税して得た金員であるかのように主張するが、これは右両会社の資金繰りが苦しかつたために、原告が、知人等から借り受けて右両会社に融資したものである。そして、右両会社は一応法人組織になつているものの、訴外高陽は従業員僅か四名、訴外高商は僅か六名の小企業であり、その実態が、原告の個人営業とほとんど変わりないものである。そのため原告個人の事業と右両会社のそれとが多少の混同するところがあつたことはやむを得ないところである。

五  原告の反論に対する被告の認否、及び、再反論

1  認否

原告の反論は、すべて争う。

2  再反論

(一) 日計票の筆跡痕(乙第一号証)のうちの大半が、原告方の従業員が客寄せのためゲーム機を使用したことによるものではない。すなわち、真実従業員が客寄せのためゲーム機を使用し、原告においてゲーム機の示すコインの使用枚数を調査する目的であつたのであれば、従業員が使用した各ゲーム機ごとの使用コイン数、及び、各従業員の獲得コイン数を記録すれば足りるし、またこの方法によるときは経営者不在のときの現金管理面での内部けん制に効果があるといえる。ところが、原告の右主張によると、原告は、客と従業員の分を併せて一枚の日計票に記録し、それと現金残高とを比較する方法によつたというのであるから、このような方法では、客又は従業員のゲーム機によるコイン獲得割合が一定であればともかく、右割合が一定でない以上、従業員の分も客の分も、ともに把握できないことになる。

また、原告の主張に従えば、売上利益の計算は、毎日の現金残高から経費、つり銭等を加減して算定するというにつきる。これでは、現金管理面での内部けん制の点からも、ゲーム機管理(換金率の調整)の上からも、極めて不十分な売上高把握の方法であり、原告の主張は単なるいい逃れにすぎず、到底信用できない。

また、別表(二)の記載から明らかなように、右筆跡痕による売上利益の額は、金二万八〇〇〇円から金二一万七〇〇〇円と増減が大きいのに比し、記帳による利益の額は、金二万一〇〇〇円から金四万六五〇〇円と増減は小さく、かつ、日計票二三枚中一九枚は金三万円台となつている。ゲーム機による売上利益が記帳のように一定するというのは不自然である。

次に、原告の主張によると、筆跡痕の数値には、従業員分が含まれているというのであるから、右筆跡痕による使用コイン数から引換コイン数を差し引いたコイン数に金二〇円を乗じた金額は、実際の売上利益金額を示すものではないことになる。ところが、例えば、一二月二五日(木曜日)の筆跡痕をよく見ると次のようになつている。

引換コイン数

600

600

450

900

300

200

450

500

500

600

400

700

50

計6,250(枚)

使用コイン数‥

16,400(枚)

引換コイン数‥

<出>6,250(枚)

差引コイン数‥

10,150(枚)

(×20円)総計

203,000(円)

<+>2,500(円)

205,500(円)

つまり、使用コイン数一万六四〇〇枚から引換コイン数六二五〇枚を差し引いた一万〇一五〇枚に金二〇円を乗じた金二〇万三〇〇〇円が、通常は当日の売上利益金額となるのであるが、原告は、右使用及び引換コイン枚数には従業員が客寄せのために使用したコインが含まれているというのであるから、右売上利益金額金二〇万三〇〇〇円は、実際の現金収入を示すものではなく、単なる計算上の金額にすぎないことになる。ところが、右筆跡痕では、原告主張によれば、単なる計算上の金額にすぎない金二〇万三〇〇〇円に雑収入か何かは定かではないが、具体的な金額金二五〇〇円を加算して合計金額を金二〇万五五〇〇円としている。このことからみても、右金二〇万三〇〇〇円は、単なる計算上の金額ではなく、実際の売上利益を示す金額というべきである。

以上に述べた点からみて、原告が提示した日計票に筆跡痕として残された数値は、従業員が使用した分を含まない実際の売上記録であるといわざるをえず、原告の主張は不自然不合理であり単なる言い逃れにすぎない。

(二) 筆跡痕の認められる日計票は、原告主張の如く少ないものではない。すなわち、乙第一号証の一ないし二〇は、あくまで写真であり、確かに見にくいものが多いけれど、被告の部下職員は、このような写真だけでなく、既に原告へ返還した現物で筆跡痕を確認している。なお、よく見ると、乙第一号証の写真によつても、一二月三日、一二月二三日及び一二月二七日の日計票からは上下四段の数値を次のとおり読み取ることができる。

12月3日(水) 8,150(枚)-4,550(枚)=3,600(枚) 72,000(円)

12月23日(火) 7,650-2,450=5,200 104,000

12月27日(土) 14,900-8,300=6,800 136,000

また、前叙のとおり、筆跡痕は、昭和五五年一一月、一二月分のみに認められるのではなく、年間を通じて認められ、このことは、被告の部下職員が、各月の一定日を抽出して撮影した日計票(乙第二号証)により明らかである。なお、原告の主張に従えば、毎日の利益は、現金残高に基づいて、いわばどんぶり勘定的に記入することをもつて足り、筆跡痕に認められるような詳細な記録は本来必要としないにもかかわらず、それが一一月、一二月分の日計票に認められるのは、そのころ原告が従業員に命じて書かせたからであるというのであるから、右筆跡痕は他の月にはないことになる。ところが、一一月、一二月以外の月の分にも、筆跡痕が認められることを乙第二号証は示しているのである。つまり、原告は年間を通じて真実の売上内容を記録していた事実を乙第二号証は立証するものである。ただどういう理由からかは定かでないが、他の月の日計票に上下四段の数字のうち最上段の数値(客が購入したコイン数)の記載がないため、推計の根拠となしえなかつたにすぎない。

(三) 昭和五五年分の日計票のうち筆跡痕が認められる割合は、原告主張の如く少ないものではない。原告の主張による一〇四五枚の日計票の枚数は、昭和五三年分ないし五四年分の三年間の合計枚数である。ところが、前叙のとおり、原告は、右三年間の日計票のすべてを被告の部下職員に提示したのではなく、昭和五五年における原告の営業日数である三五六日分の日計票だけを提示し、他の年分については廃棄したという口実で提示しなかつた。したがつて、原告の主張を前提にしても、分母は一〇四五枚ではなく三五六枚とすべきものである。

更に、前叙のとおり、原告から提示された三五六枚の日計票は、全てにつき筆跡痕が認められ、そのうち、売上高を判断できたものは、被告が従前主張していた二二枚と、後に追加した一枚(一一月一一日分の日計票、乙第三号証参照)の合計二三枚だけであつたのである。

したがつて、被告が推計の根拠とした日計票枚数の全日計票に対する比率は、原告が主張するほど低いものではなく、また、そもそも右比率が何パーセント以上なら推計に合理性があるが、それ以下なら推計に合理性がないともいえない。

なお、原告の事業内容からすると、昭和五五年分の売上の状況は、他の年分と特に異なる特別の理由もなく、ましてや平均して一日金三万円平均の売上を記帳し続けている本件の場合は、他の年分の売上除外割合で推計することが特に誤つた結果となるとは考えられず、それ以外に何の資料もないときは本件のような推計も許されるものというべきである。

(四) 昭和五五年一一月一一日分の日計票については、被告第一準備書面の主張でもれていたことが判明したので追加しただけのことであり、本件更正処分をするにあたつてはその推計根拠に含めていたのであるが、異議決定の段階ではもれていたものである。

さらに、原告は、日計票の日付けが異議決定時のものと相違する点を指摘するが、これは原告の記帳額及び日計票のフイルムネガ等を精査した結果、誤りが認められたので訂正したにすぎない。

(五) 被告は、大阪市信用金庫門真支店にある原告の三つの預金口座への入金額を推計の目安としたにとどまり、決して右入金額をもつて売上高を推計したのではない。すなわち、右三口座のうち、細川昭一名義の架空口座は、昭和五五年六月三〇日に解約されているため、昭和五五年分については推計のしようもないのであるから、右三口座への入金額は単に日計票の改ざん割合による推計金額の合理性を判断する上での目安としたにすぎない。

また、右三口座の預金の出所は、本件ゲームセンター以外に原告の経営するレストラン、麻雀店等の売上げをも預け入れていたということはない。被告の把握し得たところでは、原告が他に経営しているのは、訴外高陽、及び、訴外高商の二店であり、いずれも原告とは、その人格を異にしており、これらの法人が、いかなる理由、目的のために架空名義や原告名義の右預金口座へその売上金を入金する必要があるのか全く不可解である。右二法人は、それぞれの法人名義の預金口座にそれぞれの売上げを入金すべきことはいうまでもない。

(六) 原告、及び、その妻の訴外高陽、及び、同高商に対する貸付けの原資が、原告の主張のように、原告の知人等から出ているとしても、年間金一〇〇〇万円程度の売上利益では、到底知人等への返済はできないというべきである。

六  被告の再反論に対する原告の認否、及び、再々反論

1  被告の再反論は争う。

2  再々反論

(一) 日計票の筆跡痕は、前叙のとおり、昭和五五年一一月、一二月頃、原告が、実際の現金収入金額とゲーム機の示すコインの売上枚数に金二〇円を乗じた金額との差額を比較する方法によつて、その雇用する従業員が毎日どの程度、機械を使用しているかを調査するため、従業員に命じて、ゲーム機の示すコインの売上枚数を記帳せしめたのであるところ、そもそもコインの使用枚数は、コイン保管機に自動的に印字されるデータが保存される仕組みになつているので、これを見れば事足りるし(コイン獲得枚数については、初めから原告が従業員に命じて従業員に記録させていた。)、また、従業員の不正を防止しようとするのに、当該従業員にコインの使用枚数等を記録させるのであれば、従業員が、記録する自らの数値を任意に操作すれば、容易に不正を隠ぺいできるのであるから、それは何ら不正防止の手段とはなりえない。それ故、原告はコイン保管機の示すデータと実際の現金残高とを比較する方法によつて、従業員の使用枚数、獲得枚数を把握しようとしたのである。

また、昭和五五年一二月二五日付けの日計票で、金二〇万三〇〇〇円に金二五〇〇円を加算しているのは、この金二五〇〇円分相当のコインがバラ売りされたものであつたことから、保管機にその数量が印字されていなかつたためである。それ故、正確な売上高を把握するのに、最終的に総計額の金二〇万三〇〇〇円にこれを加算したにすぎない。したがつて、右金額の加算をもつて、何ら右金二〇万三、〇〇〇円が実際の売上利益額となるものではない。

(二) 本件において、被告主張の筆跡痕からの推計の合理性を担保し得るために、何割以上の資料が必要であるかとの明確な具体的基準が存在するわけではないけれども、少なくとも、当該資料の存在から、推計が科学的にみても合理的であると認められるだけは必要であるところ、この合理性の持つ性格自体に照らし、必然的に、当該資料から全体を把握できるに必要なだけの資料の存在することが必要であることは言を待たない。そして、それには、少なくとも二割程度の資料の存在が必要であるというべきである。

(三) 一一月一一日付日計票については、単純な遺漏ミスではない。この日計票が全体に占める性格からみても、被告側が、故意に隠蔽した可能性が大である。

七  原告の再々反論に対する被告の認否

原告の再々反論は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の係争各年分の総所得金額について検討する。

1  事業所得金額

(一)  収入金額

被告は、原告から提出された昭和五五年分の日計票中、同年一一月分から一二月分のうちの合計二三枚について、売上金額の筆跡痕を認めたため、これに基づいて係争各年分の原告の収入金額を推計した旨主張し、原告は、右推計の資料、及び、推計方法を争うので以下、右の点について検討する。

(1) 成立に争いのない甲第三、四号証、同七、八号証(但し、甲第三、四号証、同第八号証中後記信用しない部分は除く)、乙第一号証の一ないし二〇、同第二号証の一ないし一〇、同第三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一一号証の一ないし三四七、同第一二号証の一ないし三四六、同第一三号証の一ないし三五六、同第一五号証、証人竹内昇の証言により真正に成立したと認められる甲第一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第四号証の一、二、証人竹内昇の証言、及び、原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く)、並びに、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。すなわち

(イ) 原告は、かねてから寝屋川市下神田において、ゲームセンター「萱島ゲームセンター」を経営していたところ、右ゲームセンターでは、顧客にスロツトマシン、インベーター等によるゲーム遊びをさせることをその営業内容としていた。

そして、そのうち、インベーターは、現金(一〇円玉)を使用してゲーム遊びをするのであるが、スロツトマシンは、顧客が原告の店で一枚金二〇円のコインを購入し、そのコインを使用してゲーム遊びをするものであつて、右ゲーム遊びをした結果顧客の獲得したコインは、原告方で景品又は現金に交換されていた。

(ロ) ところで、被告の部下職員は、原告の昭和五三年分ないし五五年分(本件係争各年分)の所得税を調査するため、原告方を訪れるなどして、資料の提出等右調査に協力を求めたが、原告から必ずしも充分な協力が得られず、その後、昭和五五年分についてのみ、原告から日計票約三五六枚と売上等を記載した大学ノート等が提出された。しかし、それ以外には、原告の本件係争各年分の事業所得を正確に把握する資料は提出されず、右事業所得を実額で把握することはできなかつた。

(ハ) そこで、被告の部下職員が、原告から提出された日計票を子細に検討したところ、右ゲーム機用のコインの枚数等を表わす文字と数字の筆跡痕があり、これを鉛筆で軽く擦り浮き彫りにさせると、昭和五五年一一月分、及び一二月分の日計票中、合計二三枚(甲第一三号証の三〇二、三〇三、乙第一号証の一ないし二〇、同第三号証(但し、乙号証はその原本の写である。)について、別表(二)に記載のとおりの数字等の読みとれる筆跡痕があつた。そして、当時右日計票の原本を写した写真のうち、乙第一号証の二ないし六、八、一〇、一一、一五ないし二〇、乙第三号証(いずれも原本の写)等については、現在でも右筆跡痕の数字をかなり明瞭に読みとることができる。

(ニ) 右日計票のうち、例えば、乙第一号証の二についていえば、同号証は昭和五五年一一月一二日分を記載したもので、一番上の「一〇〇〇」という記載からその下方の「一五〇」という記載までの数字は、その日に顧客が原告方に交換を申出たコイン数(顧客の獲得したコインの数)で、その下の「計」として「三六五〇」とある数字は、右顧客が交換を求めたコインの合計数を表わしている。また、その下に、「七六五〇」とある数字は、その日に顧客がスロツトマシンのゲーム遊びをするために原告方で購入したコインの数を表わしたものであり、「七六五〇」「三六五〇」「四〇〇〇」とある数字は、その日のコインの売上数「七六五〇」から顧客が交換を求めたコインの数「三六五〇」を引いた残りが「四〇〇〇」となることを表わしたもので、右四〇〇〇は、その日に原告が収益をあげたコインの数を表わしたものであり、さらにその下の「八〇、〇〇〇」とある数字は、コインが一枚当り金二〇円であるところから、金二〇円に四〇〇〇を乗じた額が「八〇、〇〇〇」であつて、結局、金八万円がその日の原告方の収入であることを表わしたものである。そして、乙第一号証の二のうちに黒く「三〇〇〇〇」と記載されている数字は、原告がその日の収入は金三万円であるとして記載したものであつて、結局右乙第 号証の二によれば、原告は、昭和五五年一一月一二日には、実際には、金八万円の収入を得ていながら、表面的(日計票上、以下同じ。)には、金三万円の収入であつたとして取扱つたことを表している。

前記数字の読みとれるその他の日計票の記載も、右と同様のことを表しているが、その外に、例えば、乙第一号証の一八の日計票の下から三段目に「二五〇〇」とあるのは、その日の収入金二〇万三〇〇〇円の外に、端数のコインの売上による収入が別に金二五〇〇円あつたことを表しており、結局乙第一号証の一八の日計票によれば、原告は、昭和五五年一二月二五日の実際の収入は金二〇万五五〇〇円であるのに、その多くを隠ぺいして、表面上(日計票上)その日の収入は金三万五五〇〇円(黒く書いた数字)として取扱つたことを表している。

(ホ) なお、乙第一号証の一(昭和五五年一一月九日分)は、当時被告の部下職員がゼロツクスで写を取つたため、その内容が不鮮明であり、また、昭和五五年一一月七日及び八日の日計票(甲第一三号証の三〇二、三〇三)については、当時の担当者が、その内容を書き写した上、原本を原告に返したので、現在被告の手許に原本は存在しないが、右三日分の日計票の筆跡痕の内容は、別表(二)の該当部分に記載の通りである。

(ヘ) したがつて、原告は、前記筆跡痕の読みとれる日計票二三枚の作成された昭和五七年一一月七日から同年一二月三〇日までのうちの計二三日間の各日について、実際には、右筆跡痕から読みとれる収入額があつたのに、その多くを隠ぺいして、表面的(日計票上)に黒い数字で記載された金額の収入があつたに過ぎないものとして取扱つたもので(但し、乙第三号証の一一月一一日分については後述のとおりである。)、その合計額は、別表(三)に記載のとおりであり、筆跡痕の収入金額は合計金二七九万二五〇〇円であり、原告が表面的に取扱つた収入金額(日計票に記載した金額)は合計金八〇万八〇〇〇円であつて、前者は後者の三・四五六倍である。

(ト) 原告から提出された昭和五五年分の日計票には、すべて、前記二三枚の日計票と同様の筆跡痕があつたけれども、右二三枚以外の日計票には、売上金額(コインの販売枚数)等の筆跡痕のないものや、数字の不鮮明なものがあり、その実際の収入額を推計する基礎資料に使用することが困難であつたので、右二三枚(但し、本件各処分当時は、乙第三号証は見落していてそれ以外の二二枚)以外の日計票については、これを推計の基礎に用いなかつた。しかし、原告方の営業成績は、昭和五三年分ないし同五五年分を通じてさしたる変化はないのであるから、原告は、昭和五五年分を通じて、前記二三枚の日計票と同様の操作をして、その収入の多くを隠ぺいしていたし、昭和五三年分、同五四年分についても、右と同様の収入の隠ぺいをしていたものと推認される。

(チ) 次に原告は、大阪市信用金庫門真支店に、原告名義の普通預金口座、及び当座預金口座、並びに、細川昭一名義の普通預金口座を有しており、原告が右三口座へ入金した総額は、預金利息入金等を除くと、昭和五三年分が金四七二一万一七一七円、同五四年分が金三七二八万九四〇〇円である。なお、細川昭一名義の普通預金は、昭和五五年六月三〇日に解約されているため、昭和五五年分について、右のような預金総額の算出ができない。一方、原告の確定申告による係争各年分の収入金額は、昭和五三年分が金一三〇一万二七一八円、同五四年分が金一〇四五万九六〇五円、同五五年分が金一一一八万六三六七円である。

したがって、昭和五三年分、及び、同五四年分についてみれば、原告が、前記三口座へ入金した金額は、次のとおり、原告の申告に係る収入金額の三・五ないし三・六倍に相当する。

(昭和53年分)

47,211,717÷13,012,718=3.6281

(昭和54年分)

37,289,400÷10,459,605=3.5650

(リ) 原告は、萱島ゲームセンターの他、株式会社レストラン高陽(訴外高陽)、及び、株式会社高商(訴外高商)を経営しているが、昭和五六年九月頃、原告、及び、その妻は、右二法人に対し、総額金九九五一万〇七一九円の貸付をしていた。これは、原告の前記確定申告に係る係争各年分の所得額に照らせば、極端に高額な貸付金額である。以上の事実が認められ、前掲甲第三、四号証、同第八号証、成立に争いのない甲第二号証、同第五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一四、一五号証の各記載内容、及び、原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすれば、原告は、本件係争各年の事業収入金額について、実際の収入金額の多くを隠ぺいし、表面的には(申告収入金については)、実際の収入金額よりも少なくしていたもので、右事業収入金額を実額で把握することは困難であるから、推計によらざるを得ないところ、原告は、昭和五五年一一月七日から同年一二月三〇日までのうち、前記筆跡痕の読みとれる日計票の作成された二三日間について、平均して表面上の収入金額を実際の収入金額の三・四五六分の一少なくしていたものというべきであるから、他に特段の立証のない本件においては、原告の本件係争各年分の事業収入金額は、原告が本件係争各年分の事業収入金額として被告に確定申告をした額の三・四五六倍であると認めるのが相当である。

ところで、原告が被告に申請した昭和五三年分の事業収入金額は、金一三〇一万二七一八円であり、同五四年分の事業収入金額は金一〇四五万九六〇五円であり、昭和五五年分の事業収入金額は金一一一八万六三六七円であることは、前記の通りであるから、結局、原告の実際の事業収入金額は、次のとおり、昭和五三年分が金四四九七万一九五三円、同五四年分が金三六一四万八三九四円、同五五年分が金三八六六万〇〇八九円となる。

(年分) (申告に係る収入金額) (除外割合) (推計による収入金額)

53 13,012,718×3.456=44,971,953

54 10,459,605×3.456=36,148,394

55 11,186,367×3.456=38,660,084

(2) もつとも、

(イ) 原告は、前記筆跡痕の認められる二三枚の日計票に記載の売上コイン数のなかには、原告方の従業員が客寄せのためにゲーム機を使用して遊んだコイン数も含まれているから、その数値が直ちに当日の売上高を示すものではなく、殊に、昭和五五年一一月、一二月の日計票については、丁度そのころ、原告が、実際の現金収入金額とゲーム機の示すコインの売上枚数に二〇円(コイン一枚の単価)を乗じた金額との差額を比較する方法によつて、その雇用する従業員が毎日どの程度、機械を使用しているかを調査するため、従業員に命じて、ゲーム機の示す右コインの売上枚数を記帳せしめたとの趣旨の主張をし、原告本人尋問の結果中には、原告の右主張事実に副う趣旨の供述がある。

しかし、日計票の作成された趣旨や証人竹内昇の証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、右日計票は、本来、その日における顧客に対するコインの売上枚数や、顧客がゲーム遊びをして獲得したコイン数(交換を求めたコイン数)等を記載して、その収入の実態を把握するために作成されたものであることが窺われるところ、右日計票に記載されている売上コイン枚数のなかに、顧客に販売したものと従業員の使用したものとが混然として含まれているとすれば、右収益の実態を掴むことができないのであつて、右売上コイン枚数を記載した日計票を作成した意味がなくなる。もし、原告方の従業員が客寄せのためにコインを使用したとすれば、そのコイン数は、顧客に売却したコイン数と明確に区別して記載するのが、通常の事務処理というべきである。

また、原告がその主張の現金収入金額とゲーム機の示すコインの売上枚数に金二〇円を乗じた金額との差額を比較する方法により、その雇用する従業員が毎日どの程度機械を使用しているかを調査するためならば、原告主張の如く、顧客に販売したコイン数と従業員の使用したコイン数とを混合して記載するような方法をとらず、顧客に販売したコイン数と従業員の使用したコイン数を別個に記載するのが直截簡明な方法であり、それが自然の事務処理というべきであつて、原告主張の如き事務処理は、その目的に副わないものというべきである。

したがつて、以上の諸事情に照らして考えれば、右の点に関する原告の主張事実に副う前記原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(ロ) 次に、原告は、乙第一号証の一ないし二〇の日計票のうち、一一月一八日分(乙第一号証の七)、同月二四日分(乙第一号証の九)、同月二七日分(乙第一号証の一〇)、一二月一日分(乙第一号証の一一)、同月二日分(乙第一号証の一二)、同月三日分(乙第一号証の一三)、同月四日分(乙第一号証の一四)、同月二一日分(乙第一号証の一五)、同月二二日分(乙第一号証の一六)、同月二七日分(乙第一号証の一九)は、いずれも全くその文字が判読不能であつて、推計の資料に使用し得ない旨主張する。

しかし、前掲乙第一号証の一ないし二〇、証人竹内昇の証言によれば、前述のとおり、乙第一号証の二ないし六、八、一〇、一一、一五ないし二〇については、その記載の数字を十分に読みとることができるし、その他の日計票についても、調査当時に、被告の部下職員が、現実に日計票の数字等を読みとつて、これをメモ(記録)しており、そのメモした数字を本訴で主張していることが認められるから、右原告の主張も失当である。

(ハ) 次に、原告は、乙第二号証の一ないし一〇には、乙第一号証の一ないし二〇のように、コインの売上枚数等の記載がないから、これをもつて、昭和五五年分の収入金額の全部について、推計の基礎とする有意義な筆跡痕であつたとはいえないとの趣旨の主張をしているところ、右主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、乙第二号証の一ないし一〇は、前記原告の収入金額を推計する基礎とはしていないのみならず、乙第二号証の一ないし一〇にコインの売上枚数の記載がないとしても、前記乙第一号証の一ないし二〇等合計二三枚の日計票により、昭和五五年一一月七日から同年一二月三〇日までのうちの二三日間については、真実の収入金額の多くを隠ぺいしていることが認められる以上、本件係争各年の原告方の営業成績に著しい差違の認められない本件においては、昭和五五年分の全部及び同五三年分、同五四年分についても、その真実の収入金額の多くを隠ぺいしたものと推認するのが相当であるから、右原告の主張は失当である。

(ニ) また、原告は、昭和五五年分の日計票のうち、筆跡痕が認められるのは、多くても一四枚だけであり、これは全日計票合計一〇四五枚のわずか一・三パーセント(仮に被告の主張する二三枚を認めても、わずか二・二パーセント)にすぎず、右割合によつては全日計票の内容を推認するに合理性がないと反論する。

しかし、筆跡痕の認められるのは、前記認定の如く一四枚ではなく二三枚であり、また、被告の部下職員が調査した昭和五五年分の日計票は、一〇四五枚ではなく三五六枚であるから、右原告の主張は、その前提を欠くものである。のみならず、原告の収入金額の推計に使用した日計票の全日計票に対する比率が原告主張の如く、少なくとも二割でなければ合理性がないとはいえない。却つて、前述の如く、昭和五五年一一月七日から同年一二月三〇日までのうちの二三日間について実際の収入金額の多くを隠ぺいしている以上、他に特段の反証のない限り、原告は、本件係争各年分についてその収入金額の多くを隠ぺいしていたものと推認するのが相当であり、また、その隠ぺいした割合も、前記二三日間に隠ぺいした比率と同一であると推認するのが相当である。よつて、右の点に関する原告の主張も失当である。

(ホ) なお、前掲乙第三号証によれば、昭和五五年一一月一一日のコインの売上枚数は七八〇〇、コインの交換枚数は六四五〇、原告の収益となつたコインの枚数は一四〇〇、その実際の収入金額は金二万八〇〇〇円であり、表面上の売上金額は、金三万円と日計票に記載されていることが認められるところ、前掲甲第一三号証の三〇二、三〇三、乙第一号証の一ないし八等によれば、原告方では昭和五五年一一月一一日前後の頃は、表面上の一日の売上金額をいずれも金三万円以上と記載していたことが認められるから、乙第三号証の日計票の売上金額も金三万円と記載したとも考えられなくはない(なお、この点に関する原告本人尋問の結果は信用できない。)。そして、右乙第三号証を前記の如き方法による推計の基礎に用いることは、原告にとつて有利な取扱いとなるので、前記の如くこれを推計の基礎とすることは、何ら不当な取扱いではない。よつて、右乙第三号証に関する原告の主張も採用できない。

また、原告は、別表(二)と被告が本件各処分をする際に用いた成立に争いのない甲第九号証に添付の別表1の「除外割合の計算方法」との間には、一部日計票の日付等が相違していることをあげて、被告の調査がずさんであると主張し、前記推計の合理性を争つているが、右甲第九号証に添付の別表1の「除外割合の計算方法」の記載に一部誤りがあるからといつて、前記認定の推計方法の合理性が妨げられるものではない。よつて、右原告の主張も採用できない。

(ヘ) 次に、原告は、本件ゲームセンター以外にレストラン、麻雀店の店舗を合計五店経営しており、これらの営業からあがる収益のほとんどを前記三口座に分散して預け入れていたのであつて、決して前記預金の出所は、本件ゲームセンターの一店舗のみではない旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に副う供述部分もあるが、右供述部分は直ちに措信できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

却つて、前掲証人竹内昇の証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、原告の経営にかかる訴外高陽、同高商等はその資金繰りが悪くて、預金をする余裕がなく、前記三口座の預金は、大部分が本件ゲームセンターからあがる収益金であつたことが認められる。

(ト) 更に、原告は、訴外高陽、及び、同高商に対する前記貸付金は、いずれも、知人等から借入したものである旨反論し、前記甲第一四号証、原告本人尋問の結果中には、右反論に副う記載及び供述部分があるが、右甲第一四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できない。のみならず、右各証拠によつても、いずれにせよ、原告が、確定申告に係る収入金額に比べ、極端に高額の貸付をしている事実は変らない。そして、右事実は、原告の確定申告に係る収入金額が、著じるしく低額に申告されていることを推測させるものである。よつて、原告の右反論も失当である。

(3) 以上のように、原告の反論は、いずれも理由がなく、他に(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、原告の事業収入金額は、昭和五三年分が金四四九七万一九五三円、同五四年分が金三六一四万八三九四円、同五五年分が金三八六六万〇〇八四円というべきである。

(二)  必要経費

原告の係争各年分の必要経費の額が、昭和五三年分は金五六四万七〇九八円、同五四年分は金七三四万八九二四円、同五五年分は金七五七万七〇〇五円であることはいずれも原告において明らかに争わないからこれを自白したものと看做す。

(三)  そこで、前記(一)に記載の収入金額から、同(二)に記載の必要経費を差引くと、係争各年分の事業所得金額は、昭和五三年分が金三九三二万四八五五円、同五四年分が金二八七九万九四七〇円、同五五年分が金三一〇八万三〇七九円となる。

2 給与所得金額

原告の給与所得金額が、昭和五三年分は金一五六万三六〇〇円、同五四年分は金二九五万四二五六円、同五五年分は金三八七万円であることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものと看做す。

3 総所得金額

右1、及び2の認定によれば、原告の係争各年分の総所得金額は、昭和五三年分が金四〇八八万八四五五円、同五四年分が金三一七五万三七二六円、同五五年分が金三四九五万三〇七九円である。

よつて、右各総所得金額の範囲内でなされた本件各更正処分はいずれも適法である。

三  次に、本件各重加算税賦課決定処分について検討するに、前認定のとおり、原告は、係争各年分の所得税確定申告書に、収入金額を過少に記載し、除外した収入金額を架空名義の預金口座等へ入金していた。したがつて、右原告の行為が、国税通則法六八条一項に該当することは明らかであるといわねばならないから、本件各重加算税賦課決定処分も、また、適法である。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤勇 高橋正 村岡寛)

別表(一)、(二)<省略>

別表(三)「筆跡痕により売上を確認できる日計票」

年月日

売上

備考

記帳分

筆跡痕分

55.11.<7>

33,000

173,000

写真撮影前に原告へ返却

<8>

35,500

106,000

同上

<9>

34,500

134,000

同上.但しコピー有り

11

30,000

28,000

乙第3号証

<12>

30,000

80,000

<13>

35,000

135,000

<14>

37,000

67,000

<15>

38,000

138,000

17

36,500

86,000

18

40,000

210,000

20

32,000

82,000

異議決定書で11月2日としていたもの.

24

21,000

69,000

26

31,500

61,000

日計票の日付は11月27日と誤記.

12.1

39,000

100,000

2

42,000

142,000

異議決定書で12月5日としていたもの.

3

32,500

72,500

4

37,500

217,000

21

38,000

128,000

22

46,500

156,500

<23>

34,000

104,000

25

35,500

205,500

27

36,000

136,000

30

33,000

162,000

合計

<イ>808,000

<ロ>2,792,500

<ロ>÷<イ>=3.456(倍)

(単位・円)

(注)日を○で囲んだものは、原告が筆跡痕を認めたとする8枚である。

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